海外研修リポート 近藤 千花子さん(2012年度海外研修員)

奏者として、人間として
成長できたと信じています

氏名

近藤 千花子さん

所属楽団

東京交響楽団

楽器

クラリネット

研修年度

2012年度

研修先

ロンドン/イギリス

指導者

クリス・リチャーズ(ロンドン交響楽団・首席)

原点回帰し、学び直したいという強い思い

なぜ、海外へ行きたいと思ったのですか?

オーケストラに入団した当初はすべてが新鮮で楽しく、音にあふれている環境に感謝しながら仕事する日々でしたが、3、4年が過ぎたころから、音楽家としての“心”と、ルーティンワークをこなすオーケストラ奏者としての在り方とがどこか噛み合わない、といった感覚を持ち始めました。特にこの研修に行く直前は、いろいろとうまくいかないこともあり、このままでは“仕事に慣れてしまった自分”が、音楽家としてダメになってしまうのではないかと感じました。技術的にも音楽的にも原点回帰し、学び直したいという強い思いがこの海外研修へと駆り立てました。

渡航先はどのようにして選びましたか?

私は英語力をもっと身につけたいと思っていましたし、子どものころから憧れていたロンドン交響楽団の音を身近に感じたいと思い、研修先としてロンドンを選びました。

実際に行ってみていかがでしたか?

ロンドンは東京と同じく大都会で、生活のスピードも他のヨーロッパの街に比べれば断然速いとは思いますが、街にはたくさんの公園があり、同時に自然を感じることができる街です。芸術面では、世界的なアーティストが多く集まり、クラシックコンサートシリーズの「ザ・プロムス」など、クラシックの音楽市場もかなり恵まれています。渡航前に想像していたほど、初めての外国生活に苦労や不便も感じず、基本的には心地よく生活することができました。私自身と街との相性がよかったことも、充実した海外生活につながったのではないかと思います。

要求はとても厳しかったけれど、
楽しく幸せなレッスンの連続でした

ロンドンではどのような毎日を過ごしていたのですか?

英国王立音楽院の修士課程2年のプログラムを1年で修了する、集約されたカリキュラムだったので、忙しい学生生活ではありましたが、それでも日本での生活から比べれば、ゆったりとした学生生活を送ることができました。

レッスンはいかがでしたか?

ロンドン交響楽団(LSO)の首席奏者クリス・リチャーズにクラリネットを、同じくLSOのEsクラリネット首席奏者チー・ユーモーにEsクラリネットを師事しました。お二人とも音楽家としてだけではなく、パーソナリティも本当に尊敬できる方で、毎回の要求はとても厳しかったけれど、楽しく幸せなレッスンの連続でした。特に、クリス先生は私と同世代の若い奏者。同じオーケストラ奏者としての目線からも、たくさんのアドバイスをもらいました。口の周りの筋肉やブレスのための体の具体的な使い方、さらには、特にテクニックを要する箇所においてのメンタル面でのアドバイスをいただき、逆に先生からは音楽に対する考えや、意思について、多くの意見を求められることもありました。

音楽家として、そして日本人としての
自分と向き合える時間を十分に持てた

演奏会にもたくさん行かれたようですね。

夏の「ザ・プロムス」では、ロンドンに住み始めたときと帰国する直前に何公演か聴き、演奏会はロンドンのオーケストラを中心に、1年を通してたくさん聴きました。特に、ロンドン交響楽団は可能な限り通いました。完売の演奏会はゲネプロを見学させてもらったり……。聴衆の立場から音楽を純粋に楽しむ感覚を思い出すと共に、ニュアンスや響き、演奏会全体の雰囲気など、日本との相違点を多く感じました。帰国2カ月前の6月には、2週間エキストラで出演する機会をいただき、実際に憧れのLSOの響きの中で演奏することができました。リハーサル・本番とも感動の連続でした。

海外研修を振り返って、どのようなことを感じていますか?

1年間の海外研修はあっという間でしたが、とても凝縮された、内容の濃い1年を送ることができました。一番の収穫は音楽家として、そして日本人としての自分と向き合える時間を十分に持てたということです。音楽に対してだけではなく、仲間や家族に感謝する気持ちや、日本という国のことを考える日々でもありました。奏者として、人間として、この研修を通して何か変化があり、成長することができたと信じています。

※2014年5月時点の内容となります。
※本文中の人名表記はご本人の言葉に沿って一部敬称略、また登場人物の所属等はすべて当時のものです。