「音で会話し、時には対話して
その時にできる最高の音楽を追求する」、
そういう音楽家でありたいと強く思っています。
- 氏名
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林 裕人さん
- 所属楽団
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名古屋フィルハーモニー交響楽団
- 楽器
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テューバ
- 研修年度
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2017年度
- 研修先
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ミュンヘン/ドイツ
- 指導者
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シュテファン・ティシュラー
(バイエルン放送交響楽団・首席)
なぜ、海外研修員に応募したのですか?
海外への憧れは以前から強く、特にドイツのオーケストラの音の魅力には今もですが取り憑かれっぱなしです。
当時はその秘密を探りたい一心でした。楽器が上手くなりたい!と言うよりは、オーケストラの中でのテューバの働きを知りたい、どうやったらあんな音色が出せるのかと言うことを追求したいと思いました。
また、彼らの演奏者としてのメンタリティも学びたいと思いました。
研修中の課題は何でしたか?どのようなレッスンを受講しましたか?
週に1回…という週の方が少なかったかも知れません。ほぼ毎日ヘラクレスザールやガスタイクへ通い、Stefan Tischler先生とウォームアップをしてリハーサルを見学、その後レッスンをしてくださるという流れが多かったです。
さっきまで一緒にウォームアップしていた先生の音がどうやって響くのか、どれくらい息を使ってどんな音量でどんな発音で演奏されているのか、近くで聴いたりホールの客席から聴いたりと…とても勉強になりました。
リハーサルも今をときめく一流の指揮者しか来ないバイエルン放送響、音楽的な内容はもちろん、一流プレーヤーを目の前に繰り広げられる指揮者のリハーサルテクニックはとても勉強になりました。
実際のレッスンはオーケストラスタディが中心でした。これも実戦で使える技、そしてオーディションで演奏する際の注意点など、幅広いレパートリーをレッスンして下さいました。
何より、Stefan先生が実際に演奏してみない?と誘ってくださり、幸運なことに数度に渡ってバイエルン放送響に客演させて頂けたのは幸運なことでした。
なかでも今は亡きマリス・ヤンソンス氏(音楽監督)の指揮でR・シュトラウスの『ツァラトゥストラはかく語りき』を先生の隣で演奏させて頂けた事、そしてその演奏でハンブルクへツアーへ一緒に同行できたことは、一生の経験です。
海外の生活はどうでしたか?
慣れるまでは言葉の問題、文化の違いなど戸惑うことが多くありました。特にビザ関係は大変でした。
ユーロ圏内に住んでいない民族は、同じ住民登録でも時間は何倍もかかってしまう、他の国へ行った時の飛行機の入国審査も、順番はものすごく後回しにされるなど、かなりショッキングな気持ちになったのも忘れられません。
食生活も合うまでに時間がかかったり、シャワーの水が合わずに全身に湿疹ができたりと、すぐにでも帰りたいと思うことがたくさんありました。
しかし生活する上でドイツ人は、多少日本人と共通するメンタリティを持つ方も多くいたので、さほど時間はかかることなく打ち解けることができました。何よりビールが美味しい!
語学学校へ通っていましたが、練習を終えて、ビアバーにくり出し、ビール片手に全く知らないお客さんと片言のドイツ語で一生懸命喋る方がよっぽど勉強になりました(笑)
研修を終え、自分の楽団に戻ってからの演奏にどのような変化がありましたか?また何を大事にしていますか?
留学前は自分のこと、決められたことを演奏することに精一杯でした。
音楽をしていたというよりはパズル的だったかもしれません。
帰国してからは以前より少し周りを聴いたり察知したりできるようになった気がします。その中で音楽を主張できるようになったかもしれません。
もちろんまだまだ勉強しなくてはならないことだらけですが、ちょっとずつ自分の出したい音、音楽の方向性が見えてきました。
ですが、様々な音楽家がいるオーケストラ、毎度変わる指揮者に対してこれが絶対だ!という信念を持ちつつも柔軟に対応する事も大切だと思いました。それは先生たちのリハーサルを見学していて感じました。
音楽がぶつかった時、音で会話し、時にはちゃんと対話してその時にできる最高の音楽を追求する。世界最高峰の彼らが当たり前にしているその行動ひとつひとつに感銘を受けました。
私もそういう音楽家でありたいと強く思っています。
海外研修を考えている方々へ一言!
海外で生活すると言うことだけでもかなり大変です。
その上勉強して自分を見つめ直し、さらに向上させるにはそれなりのエネルギーが必要だと思います。
甘んじて堕落している留学生もたくさんいます。そこに混じらずに1つ信念を持って、目標を持って毎日過ごすことが大切だと感じました。
Münchenはとにかくコンサートが多く、毎晩必ずどこかで開催されていました。一流のミュージシャンを目の当たりで安い値段でたくさん聴く、高いチケットを買って日本で聴く感じとは全く違う演奏をたくさん聴くことができます。
たくさんコンサートに通って下さい。そこに新しい音楽との出会いは必ずあります。
毎日閉じこもって練習する事も大切ですがどんどん外に出てとにかく行動すること!
ぜひ研修期間がより実りあるものになりますように…!
※2020年4月時点の内容となります。
※本文中の人名表記はご本人の言葉に沿って一部敬称略、また登場人物の所属等はすべて当時のものです。