何が❝正解❞なのかを
知ることができたように思います
- 氏名
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宮坂 拡志さん
- 所属楽団
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NHK交響楽団
- 楽器
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チェロ
- 研修年度
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2010年度
- 研修先
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ミュンヘン/ドイツ
- 指導者
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ウェン=シン・ヤン(ミュンヘン音楽大学副学長)
タイミングが合ったというか、じゃあもう「行きます」って
なぜ、海外研修に応募しようと思ったのですか。
僕は、留学を経験しないままNHK交響楽団へ入団。「いつかは海外へ行きたい」という思いは入団後、間もないころからありました。この海外研修制度は、N響の先輩である西山健一さんや同期の大宮臨太郎が先に体験していて、話を聞いていたので知っていて……。僕としても、体験しないままに定年を迎えて後悔するようなことはしたくないな、と。
では、周りからの勧めもあって。
そうですね、ずっと「行って来い」とは言われていて。チェロセクションのメンバーはほとんどが留学経験者で、そのせいもあってか、団への働きかけなんかもすべてやってもらった感じですね。例えば、僕がいない期間のエキストラの手配とか。それであとはなんとなくタイミングが合ったというか、じゃあもう「行きます」って。
オーケストラを見たり聴いたり、というのは
誰よりもやっていると思います
渡航先と指導者はどのようにして決めたのですか。
それまでにミュンヘンへは一度も行ったことがありませんでした。でも、ウェン=シン・ヤン先生とは以前から面識があって。それで、ヤン先生が「アフィニス夏の音楽祭」で広島に滞在されていたときに、直接お願いしに行きました。語学にあまり自信もなかったし、メールでお願いするよりもいいかと思って……。そうしたらヤン先生がその場で快諾してくださって、すんなりと決まりましたね。
研修先の大学ではどのような毎日を過ごされていますか。
ミュンヘン音楽大学のゲスト聴講生として、レッスンを受けたり、ウェン=シン・ヤンクラスの発表会に行ったり、ユリア・フィッシャー(注:ヴァイオリニスト)の公開レッスンを聴講したりしています。でも、実は大学で過ごす以外の時間の方が多いかもしれない(笑)。
と、いうと?
あちらに行ってから今までに、ざっと数えて120回以上はオーケストラのコンサートを聴きに行っています。それと、バイエルン放送交響楽団のリハーサルにもしょっちゅう足を運んでいて。朝は大体8時ごろに起きて、10時からバイエルン放送響のリハーサルを見学。昼食後もまたリハーサルを見て、帰ってきて練習して、夜はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートに行って……というような毎日ですね。
ずいぶんアクティブに活動されているんですね。
オーケストラのコンサートに行ったりリハーサルを見たり、というのは僕が誰よりもやっていると思います(注:胸を張る)。自宅にこもっているだけなら日本にいてもできますから。もともと自分は出不精だと思っていたんですが、いざ行ってみるとそうでもなかったみたいで(笑)。ミュンヘンだけではなくウィーンやパリ、ベルリン、ライプツィヒなどいろいろな都市へ旅行もして、行く先々でコンサートを聴きに行っています。
いい刺激を求めて
いろいろな❝正解❞を探しに行くべき
あちらのオーケストラを見ることで、どのような点が勉強になりますか。
僕は特に、バイエルン放送響とウィーンフィルが好きなんです。雰囲気もよいし、指揮者も超一流。リハーサルにしても、初日から全員が完ぺきに音を合わせてきていて、団員の意識の高さを感じますね。それに、たとえトップレベルの音楽家でも威張ったりせず、みんな自然で紳士的なところもすごく印象的です。
この海外研修を通して宮坂さんが得たもの、感じたこととは?
さまざまなオーケストラの演奏を聴くことで、アジアの――日本のオーケストラでやっている僕たちのスタンスが頭の中でクリアになったというか。何が“正解”なのかをある程度知ることができたように思います。
“正解”というのはどういう意味でしょうか。
僕たちは普段、海外のオーケストラの中でも一流どころの演奏しか知りません。だから時には「きっと海外のオーケストラは日本のとは違うんだろうな」というもやもやとした思いを抱いたりすることもある。でも実際は、オーケストラのレベルは海外でも千差万別だし、世界的に見ても、日本のオーケストラは必ずしも低い位置にいるわけではないんです。僕たちはそのことをちゃんと認識した上で、よりレベルの高いオーケストラを見ていかなければならない。それが、何かをしようとする時の明確な基準になると思うんです。その正しい基準=“正解”を持って「これはこのやり方でいいんだ」と言えるようになるのだと思います。
宮坂さんは海外研修で“正解”を見つけたわけですね。
うん、それにやっぱり向こうのオーケストラは上手だし、単純にいい刺激も受けていて。残り数カ月、いただいた研修期間を全部使い切ってくるつもりです。みんなもいい刺激を求めて、いろいろな“正解”を探しに海外研修へ行くべきですね。あと、あちらは湿度が低いので楽器の鳴りが違います。きっと楽器もヨーロッパに来れてうれしいんだろうな、と思いますね(笑)。
※2011年6月時点の内容となります。
※本文中の人名表記はご本人の言葉に沿って一部敬称略、また登場人物の所属等はすべて当時のものです。